Argoculus活用に先駆けた基礎研究を紹介します。
はじめに
紹介の前半では、ロータリーポンプの速度rms、および速度rmsを軸回転数との相関で見ると、大部分の計測結果はエンジニアリング的に妥当な相関を持っているけれど、軸回転数が低下した場合には妥当な相関関係が失われる事を見出した事、および妥当な相関が失われた運転を「レッド運転」と仮称した事まで記しました。紹介の後半である本稿では、レッド運転とは何を意味するのか、また設備管理への適用について記します。レッド運転とは
ポンプ軸回転数を縦軸、横軸に加速度rmsをプロットすると、大部分の計測データに対しては軸回転数と加速度rmsの間に負の相関が成立します。ここで軸回転数はポンプ駆動モータの負荷の指標であり、負荷が大きくなると回転数が低下します。したがって、上記の相関はポンプの負荷が大きくなると加速度rmsが大きくなる事を意味するので、工学的には納得できます。一方、軸回転数と速度rmsの間には正の相関が見られます。このメカニズムの説明は省略しますが、工学的には妥当な相関です。この関係図を図 1 、図 2 として再掲します。
図1 軸回転数と加速度rms相関 |
図2 軸回転数と速度rms相関 |
図 1 、図 2 を見ると、回転数が大きく低下すると、上記の相関が失われる事が解ります。このような運転は、ポンプの負荷が過大になり振動発生のメカニズムが正常状態から逸脱したものである可能性があります。この推論を念頭に、運転区分の時系列データを作ったものを図 3 に示します。図 3 と熱処理炉の運転記録を照合すると、図の左端にあるレッド運転はポンプの過負荷運転と対応している事が解りましたが、熟練者の判断としてポンプに異音他の異常は認められませんでした。しかし、詳細な議論は省きますが、運転履歴から判断すると、レッド運転とはポンプを破損するレベルでは無い軽微な過負荷運転が行われたものが含まれていると考えられます。
図3 運転区分の経時変化
今までの議論は、ポンプの負荷が大きくなる事により、ポンプ駆動モータの負荷が増大して回転数が低下する事を前提としています。しかし、モータの側からみれば、上記とは別の要因として整備状況の悪化、あるいはポンプ自体の劣化でモータの負荷が大きくなり、回転数が低下します。
例えば、コナンエアの開発者である中山氏は水ポンプの軸受破損直前の振動データを分析し、回転数の低下およびスペクトル特性が変化する事を見出しました。この事例でのスペクトル特性の変化はレッド運転に伴うスペクトル特性の変化と類似しています。この事実は、ポンプ自体の劣化もレッド運転の要因になる可能性を示唆しています。
保守支援システムへの適用
以上に記したレッド運転の特定方式は振動メカニズムの異常を軸回転数と加速度rms (and/or 速度rms)という二つの物理量の相関から求める方式であり、何かの計測物理量に対して閾値を設定する方法とは異なり、判定の信頼度が高い事が特徴です。したがって本指標を用いれば、熟練者が不在でもポンプを常時モニタリングする事が可能になります。レッド運転が発生した場合には運転条件を見直し過負荷運転を回避する事により、ポンプの長寿命化やドカ停防止を図る事が可能と考えられます。さらに、レッド運転はポンプの整備不良や初期故障の指標にもなる可能性があります。レッド運転に対し、振動以外の情報を組み合わせる事によりレッド運転の要因を絞り込む事が可能と考えています。このような要因分離ができれば、整備不良やポンプ初期故障の検知ができるので、熟練者に依存しないポンプ保守支援が可能になります。
さいごに
以上が、設備管理学会で発表した内容の後半です。研究は現在も継続中で、日本設備管理学会の秋季研究発表会でその後の成果を発表しました。また、振動以外の物理量との同時計測も実施中です。興味がある方はご連絡下さい。本研究は、中日本炉工業株式会社様と共同で行っております。 中日本炉工業様のホームページでも本研究を紹介いただきましたので、是非ご参照ください。
中日本炉工業株式会社:振動分析基礎研究発表について