電磁界解析ソフトウェアEMSolution

永久磁石の入力磁化から動作点までの
減少率とパーミアンス係数

概要

一般に,埋込永久磁石形回転機(IPMモータ)はその特徴を生かし,高回転時において磁石磁束による誘起電圧を減らすことを目的として,電流進角を進めて弱め界磁運転がされます。 このとき,電機子巻線によって発生する磁束が大きすぎると,永久磁石の動作点がクニック点を超えて不可逆減磁してしまう恐れがあります。
実際のモータ設計では不可逆減磁しないように動作点を決めることが多いと考えられるため,ポスト処理によるパーミアンス係数の算出法機能を作成しました。 これにより,不可逆減磁する可能性を示すことができます。また,逆磁場も考慮した入力磁化から動作点までの減少率も算出します。

EMSolution r12.0.3から不可逆減磁を含めた非線形解析を取り扱えるようになりました。
詳しくは、"永久磁石の減磁解析"をご覧ください。

解説

ここで,入力磁化から動作点までの減少率,パーミアンス係数を以下のように定義します。

  • 入力磁化から動作点までの減少率
    入力値として与える磁化($B_r$)から動作点($B_d$[ T ] )までの減少率で $(B_r – B_d) / B_r$ で表わされます。

  • パーミアンス係数
    パーミアンス係数は、動作点の$B_d$[ T ] と$H_d$[ A/m ] より$−B_d / H_d/ μ_0$で表されます。クニック点より動作点が下がったかの判断指標となります。

逆磁場による減磁のイメージをFig.1に示します。 EMSolutionでは磁石を線形材料として扱うため,赤点線上で動作点が移動します。 ある条件下での動作点pでの磁束密度 $B_p$は入力磁化$B_r$よりも減っていることから,減少率を ($ΔB_p$) /$B_r$として定義します。減磁は逆磁場により発生すると考えると,外部磁場が $B_r$と大きさが等しく逆向きになった時,つまり$ΔB_p = B_r$の時に減少率が100%となります。クニック点がある場合,実際には青線で示した減磁曲線のように変化することになります。パーミアンス係数については,パーミアンス係数が大きい=減少率 が小さいことと等価となります。そのため,クニック点のパーミアンス係数を基準に,パーミアンス係数がそれより下がったかどうかで不可逆減磁する可能性があるかどうかを示せます。

Fig.1 減磁曲線と動作点、クニック点とパーミアンス係数(イメージ)

上記の考えのもと,ポスト処理にて入力磁化から動作点までの減少率とパーミアンス係数を算出できるようにしました。

解析例

Fig.2に示す電気学会ベンチマークモータであるD1モデルを用いて,入力磁化から動作点までの減少率とパーミアンス係数を算出した例を示します。なお,解析は全て二次元です。
永久磁石の計算条件をTable1にまとめます。

Table1 永久磁石の計算条件

種類$Nd_2Fe_{14}B$ 焼結磁石
磁石配向Parallel
磁化 [T]1.225
比透磁率1.05
寸法 [mm]220 ( 高さ60 )

Fig.2 検証モデル D1モデル

まず,無負荷解析の結果を示します。 Fig.3に1ステップ目の磁束密度分布を,Fig.4, 5に電気角一周期での入力磁化から動作点までの最大減少率と最小パーミアンス係数を示します。入力磁化から動作点までの減少率は1が100% となります。 磁気回路が形成されているため,減少率は小さく,最大で21% 程度となっています。

Fig.3 無負荷解析
1ステップ目の磁束密度分布[T]

Fig.4 無負荷解析電気角一周期の入力磁化から動作点までの最大減少率分布

Fig.5 無負荷解析電気角一周期の最少パーミアンス係数分布[H]

次に,弱め界磁時として,回転数 6000$min^{-1}$,電機子電流 7.5Arms,電流進角 $β$ = 60deg. の結果を示します。 Fig.6に1ステップ目の磁束密度分布,Fig.7, 8にそれぞれ,電気角一周期での入力磁化から動作点までの最大減少率と最小パーミアンス係数を示します。コイルに鎖交する磁石磁束を打ち消す向きにコイルによる磁束を発生させるため,磁石に逆磁場が印加され,入力磁化から動作点までの最大減少率は無負荷時よりも大きく,最大で42% 程度となっています。例えば,無負荷解析を動作点の基準とすると,弱め界磁解析との減少率の差分が減磁率となります。

Fig.6 弱め界磁解析
1ステップ目の磁束密度分布図[T]

Fig.7 弱め界磁解析電気角一周期の入力磁化から動作点までの最大減少率分布

Fig.8 弱め界磁解析電気角一周期の最少パーミアンス係数分布[H]

これらより,不可逆減磁解析をしなくても減磁する可能性を示すことができます。

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