一般に磁場解析を行うには、電気回路と有限要素との連成解析が不可欠となります。三相交流電源は、EMSolutionではCIRCUIT機能と NETWORKモジュールを用いて、有限要素との連成を行うことができますが、ここでは、CIRCUITよりも簡単且つ直感的に電気回路を設定できる NETWORK モジュールを使用して三相交流電源をモデル化する方法と、その際の注意点について説明致します。
三相交流電源(U、V、W)では、通常Y結線(Y型起電力)あるいはΔ結線(Δ型起電力)が基本となります。最も簡単な結線図として、Fig.1に起電力、負荷電流ともにY結線(Y-Y結線)図を、Fig.2に起電力がΔ結線(Δ-Y結線)図を示します。さらに,Fig.3にY起電力Δ負荷結線(Y-Δ結線)図を示します。定電圧電源(EMSolutionではVPS)、あるいは定電流電源(CPS)のどちらでも同じ表現となります。負荷側には、抵抗RとインダクタンスLがY結線で繋がれています。ここでは、簡単のため、負荷は各相で同じとし、電源は平衡しているとします。また、図中の数字は回路中の節点の番号を示しています。
まず、Fig.1のY型起電力の場合、注意点として、図のように中性点(節点1,2間)を結ぶ中性線に抵抗Rを挿入する必要があります。その際、結果に影響しない程度の大きな抵抗値$R_0$を設定下さい。本来中性点に流れる電流はゼロとなりますが、中性線を入れないとすると、独立な閉ループの数が2つになってしまい、三つの電源を独立に動かすことができなくなってしまうためです。電圧源解析の場合は計算が行われますが、電流源解析ですと計算は途中でストップしてしまいます。いずれの解析でも抵抗を挿入した中性点の結合を行うのが安全です。Table Iに、EMSolution inputデータにおけるNETWORKデータの入力例を示します。定電圧電源として扱い、負荷の抵抗Rを1W、インダクタンスLを0.01Hとしています。$R_0$は充分大きい1MWとしています。各電源に与える電圧時間変化のデータをTable IIに示します。電流の最大値を100Vとし、U、V、Wの位相を、それぞれ0°、120°、240°として、Fig.4の電圧を印加します。周波数は50HzとしてAC定常解析を行います。Fig.5に計算された負荷電流(この場合、電源電流に等しい)の時間変化を示します。
次に、Fig.2のΔ型起電力の場合、電源に直列に繋がれる抵抗($R_{u0}$、$R_{v0}$、$R_{w0}$)の入力が必須となります。これらの抵抗を挿入しないと、Δのループの抵抗がゼロとなってしまいます。そのため、数値解析上不安定となり、ループに大きな循環電流が現れたりする可能性があります。電源に直列に繋がれる抵抗には、充分小さな抵抗値を入力してください。Table III に、NETWORKデータ入力例を示します。Fig.3のY起電力Δ負荷において,電流源(CPS)解析の場合,Y起電力の中性点を結線しないと独立な閉ループを作成することができず計算できません。CPSは理想電流源ですので,実際の電源と同様に内部抵抗として非常に大きな抵抗$r_o$を電源と並列接続することで解析可能となります。Table IV に,NETWORKデータ入力例を示します。
また、三相交流を模擬する方法として、三相を分離して独立な回路とする方法が考えられます。この場合、抵抗を挿入する必要はありませんが、三相電流の総和がゼロという条件は成立しません。または、二電源での等価回路として置き換える方法も考えられます。この場合は、結線や位相のずれを適切に表さなければならないため、直感的に理解、設定することができません。NETWORKモジュールを使用しますと、実際の回路を直感的にそのまま入力することができます。CIRCUITデータを使用しても同等の解析を行うことができますが、前もって独立な電流変数を抽出して要素電流間の依存性を調べ、Connection行列等をinputデータに入力する必要があるため、直感的に理解することが容易ではありません。また、NETWORKモジュールを使用すれば、誘導電動機の解析において、エンドリングを抵抗として考慮した解析を行うことも可能です("かご型誘導機の二次元解析におけるロータバーとエンドリングの取り扱い"参照)。
Table I. Y-Y結線回路NETWORKデータ
Table II. 時間変化データ
Table III. Δ-Y結線回路NETWORKデータ
Table IV. Y-Δ結線回路NETWORKデータ
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