EMSolutionで電気回路との接続を考慮するためには,NETWORKとCIRCUITによる方法があります。NETWORKは回路図に書かれた回路素子や電源とその接続を入力データとして設定する方法であるため,直観的でわかりやすいと思われます。
一方,CIRCUITは回路の接続を独立な変数だけに整理し,その接続を行列で与えるため,直接解くべき回路方程式を表現するような方法となります。従って,CIRCUITは入力データの作成が難しいこともあり,あまり複雑な計算には向かないと思われます。しかし,NETWORKはオプションモジュールであることもあり,簡単な回路ではCIRCUITだけで済ませたいと思われることもあるかと思います。そこで,ここではよく使用される三相回路を例として,NETWORKとCIRCUITの対応について説明します。
NETWORKは回路図より回路素子やその結線をEMSolutionのinputに記述する方法であり,直観的であるために理解しやすいと思われます。そこで,まず計算するモデルの回路図を示し,CIRCUITとの比較を明確にするため,NETWORKによるデータを作成してみます。
Fig.1に三相回路の回路図を示します。図中の青字は素子番号を,赤字は端子番号を表します.この回路は"かご型誘導電動機の一極分でのモデル化"に接続された回路であり,メッシュやinputファイルなどをダウンロードすることができます。
Fig.1の橙色の部分は,要素分割され有限要素法でコイルとして磁界解析を行う領域です。また,回路の各相に直列な部分を枝と呼び,それぞれの枝を枝1,枝2,枝3とします。以降,素子,電源等の添字は各枝番号に対応します。このメッシュ内のコイルの抵抗($r_1$,$r_2$,$r_3$), 自己インダクタンス($l_1$,$l_2$,$l_3$), 相互インダクタンス($m_{12}$,$m_{23}$,$m_{31}$) はEMSolution内部で考慮されるので,ユーザがその値を指定する必要はありません。(コイル抵抗はEMSolutionで計算せずに,外部抵抗の一部として与えることもできます)。
次に,回路のメッシュに含まれない外部素子やケーブルなどの外部抵抗 (R1, R2, R3)、外部自己インダクタンス (L1, L2, L3)、外部相互インダクタンス (M12, M23, M31) はNETWORKの抵抗要素 R、インダクタンス要素L、相互インダクタンス要素Mとして設定します。また,定電圧電源は,電圧源要素VPS,定電流電源は電流源要素CPSとして設定します。ここでは定電圧電源VPSとし, V1、V2、V3は大きさが等しく位相が順に120度ずつ遅れたU,V,W相の三相電圧条件を与えます。従って,(1)式が成立します。
$$\begin{eqnarray} \left. \begin{array}{l} \displaystyle V1 = Ve^{j \omega t} \\ \displaystyle V2 = Ve^{j(\omega t – 2 \pi / 3)} \\ \displaystyle V1 + V2 + V3 = 0 \end{array} \right\} (1) \end{eqnarray} $$
Fig.2のようにinputファイル中のNETWORKのデータを設定します。ただし,外部自己・相互インダクタンスは考慮せず,メッシュのコイル抵抗は外部抵抗Rとして全て2.92Ωとしています。ロータバーの導電率を$1.01×10^7$S/mとして与え,SUFCURで定義することで,ロータバーの抵抗はEMSolution内部で計算されます。Fig.2の下2行はロータバーの回路で,三相回路とは直接関係なく,ロータバーの電源は定電流電源CPSとし,その大きさは0とする。このように大きさ0の定電流電源CPSと接続することで,回路が短絡している,つまり電流を保存させることを表します。
Fig.3は定電圧電源に与える時間関数です,その大きさ,位相などの時間的な変化を示します。電圧の大きさは線間電圧100Vを相電圧に変換し,最大値とした V(≒81.649V),周期は0.2s(周波数50Hz),位相はU,V,W相がそれぞれt=0のとき0,-120,-240度です.
Fig.1の変数と対比すると,(2)式のようになることがわかります。
$$ \begin{eqnarray} \left. \begin{array}{l} \displaystyle R_1 = R_2 = R_3 = 2.92 \\ \displaystyle L_1 = L_2 = L_3 = M_{12} = M_{23} = M_{31} = 0 \\ \displaystyle V_1 = 81.649 e^{j \omega t}, V_2 = 81.649 e^{j ( \omega t – 2 \pi / 3 )}, V_3 = 81.649 e^{j(\omega t – 4 \pi / 3)} \end{array} \right\} (2) \end{eqnarray} $$
$I_1$、$I_2$、$I_3$は未知変数ですが,三相対称回路であるため次式が成立します。
$$ \displaystyle I_1 = I_2 = I_3 = 0 (3) $$
定電源電圧は三相対称として入力データを与えますが,得られた解析結果は,一般的には電流は三相対称になるとは限りません。本解析の例でもある"かご型誘導電動機の一極分でのモデル化"のメッシュ形状は三相に対する対称性はないため,内部インダクタンスは等しくならず, $I_1$,$I_2$,$I_3$ は対称とならないことからもわかります。
線形交流定常解析(AC)を実行します。モデルは誘導機ですので,本来材料非線形性とすべり周波数,スロット高調波の影響が電流波形に現れてきますが,AC解析であるため,材料は線形とした結果が得られます。t=0におけるoutputの回路素子に関する結果はFig.4のようになります。
Fig.4のID No.はFig.1の青字で示された素子番号に対応しており,1~3はメッシュのコイル,4~6は外部抵抗,7~9は電源であり,それぞれに流れる電流及び電圧位相差を表しています。また,1~3はコイルに鎖交する磁束量も示されています。これは"外部電流磁場ソース(COIL)におけるインダクタンスの取り扱い"でも説明されているように,ターン数あたりのコイル鎖交磁束量となっております。電流や電源の電圧の条件式(1),(3)をいずれも満足していることがわかります。ここでは示しませんが,t≠0以外の結果も同様に満足しています。
CIRCUITはNETWORKのように回路図をそのまま扱わず,独立な閉ループを設定する方法です。よく知られているように,独立な閉ループの数はグラフ理論における補木(co-tree)の数となります。Fig.1の回路における独立な閉ループ数は2であるので,Fig.5に示すような閉ループA、Bを定義し,それぞれのループに流れる電流を閉路電流$I_A$、$I_B$とします。すると,NETWORKで定義した枝電流$I_1$、$I_2$、$I_3$と閉路電流$I_A$、$I_B$は次のような行列式の関係が成立します。
$$\begin{equation} \begin{Bmatrix} I_1 \\ I_2 \\ I_3 \end{Bmatrix} = \left[ \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & 1 \\ -1 & -1 \end{array} \right] \begin{Bmatrix} I_A \\ I_B \end{Bmatrix} \end{equation} (4) $$
同様に,NETWORKで定義した各枝の電源の電圧はV1、V2、V3と閉ループの電源の電圧$V_A$、$V_B$は次のような行列式の関係が成立します。
$$\begin{equation} \begin{Bmatrix} V_A \\ V_B \end{Bmatrix} = \left[ \begin{array}{cc} 1 & 0 & -1 \\ 0 & 1 & -1 \end{array} \right] \begin{Bmatrix} V_A \\ V_B \\ V_C \end{Bmatrix} \end{equation} (5)$$
(5)式で表される枝と閉ループの関係を表す行列を閉路行列,またはタイセット行列といいます。(4),(5)式からわかるように,枝と閉ループの電流,電圧の関係を表す行列は転置行列となります。
Fig.6にCIRCUITの設定を示します。外部抵抗,外部インダクタンスは行列として入力します。ソースの数はNO SERIESで設定し,その中で独立な数をPOWER SUPPLIESとします。また,(4)式の接続行列をCONNECTION MATRIXとして設定します。
電圧は(5)式の閉ループの電圧$V_A$、$V_B$を入力値とするため,その求め方を示します。Fig.7に三相対称電圧である枝の電圧$V_1$、$V_2$、$V_3$のベクトルを示します。(5)式より,例えば$V_A$は$V_1$-$V_3$であるから,赤矢印のように大きさが$V_1$の√3倍、位相が$V_1$に比べて30度遅れたベクトルになります。同様に,青矢印で示される$V_B$の大きさは$V_1$の√3倍であり、位相は$V_1$に比べて90度遅れています。従って,Fig.8のように電圧の大きさは100√2Vになる.これは,Y結線をΔ結線に変換し,さらに閉回路とするため一辺を取り除いたV結線に変換しているのと等価となります。なお,大きさに負の符号が付いているのは,NETWORKの定電圧電源の方向の定義が逆になっているためです。
NETWORKと同様にAC解析を実行し,t=0におけるoutputの回路に関する結果をFig.9に示します。
Fig.9のSourcesのID No.1,2,3はそれぞれ枝1,枝2,枝3を表しています。Amplitude (Current)は枝電流 $I_1$,$I_2$,$I_3$,であり,Fig.3のID No.1,2,3の電流に相当します。VoltageはFig.4に示すような各枝の電源以外の電圧降下を表します。例えば,枝1のVoltageはFig.9より-8.19080e+001Vであるが,これはNETWORKのID No.1,5の和に一致していることがわかります。
Fig.9のPower SourcesのID No.1,2はそれぞれ閉ループ A, B を表しています。Currentは閉路電流$I_A$,$I_B$です。VoltageはFig.4に示すような各閉ループの電源を表します。例えば,CIRCUITのID No.1のVoltageは-1.22474e+002Vであるが,これはNETWORKのID No.7,9の和に一致していることがわかります。
三相回路におけるNETWORKとCIRCIUTの関係をご理解いただけたかと思います。CIRCUITの設定方法の説明は,HPに示しておりませんでしたので,NETWORKによる設定方法と比較する形で説明致しました。NETWORKの三相回路の説明は,"Y結線と△結線"にも示しておりますので,参考にして頂ければと思います。NETWORK,CIRCUITのいずれかで設定するにしろ,想定している回路を模擬頂ければと思います。文中でも示しましたが,ここで使用したデータは,CIRCUITは"誘導電動機の解析",NETWORKによる設定法は,"かご型誘導機の二次元解析におけるロータバーとエンドリングの取り扱い","かご型誘導電動機の一極分でのモデル化"にありますので参照して頂ければと思います。
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