電磁界解析ソフトウェアEMSolution

マルチポテンシャル法について

概要

EMSolutionでは、解析領域をトータルポテンシャル領域と変形ポテンシャル領域に分け、変形ポテンシャル領域にある外部磁場ソース (EMSolutionではCOILと呼びます)を与え解析を容易にしています。この方法を2ポテンシャル法と呼んでおります。ここでは、それを拡張 した方法について解説します。

解説

2ポテンシャル法では、磁場ソースを表す電流源は変形ポテンシャル内または解析領域外に定義されれば良いため、メッシュと独立に形状を定義できます。したがって、メッシュは電流源の形状にとらわれることなく、容易に分割することができます。また、メッシュと独立ですので、位置を容易に変更することも可能で、電流源の運動解析にも利用できます。この解析法では、変形ポテンシャル内では磁気ベクトルポテンシャルを磁場ソース(COIL)によるソースポテンシャルと、トータルポテンシャル内の磁性体磁化や導体渦電流によるものなどによる変形ポテンシャルとを分離し、前者はビオ・サバール則の積分により、後者を有限要素法により計算します。コイル近傍の磁場はビオ・サバール則の積分でメッシュと独立に計算されますので、コイル近傍のメッシュが粗かったり、メッシュ外にあったりする場合でも精度を出せるのが利点の1つです。

本手法の問題点はICCG法が発散してしまう場合があることでしたが、正則化(Regularization)により解決しました(参考文献)。
2ポテンシャル法を拡張したマルチポテンシャル法では、Fig.1のようにトータルポテンシャル領域によって分離された複数の変形ポテンシャル領域において、それぞれ異なったポテンシャルを使用します。このことにより、スライド法において、固定部および可動部の両方において変形ポテンシャル領域を設けてCOILを配置することが可能になっています。スライド法を使用しない場合には同様の計算を行うことができますが、変形ポテンシャル領域のビオ・サバール則の積分をそれぞれの領域に限定することができるため、計算時間が早くなります。特に、複雑なCOILを定義した場合に効果があります。

Fig.1 マルチポテンシャル法の領域分割

例として、Fig.2のようなモデルで交流定常解析を行うとします。Cu Boxはモデル領域(1/8のみ)を表しています。COIL 2はCu Box内部に、COIL1、COIL3は外部にあります。COIL 1、COIL3は直列に接続され、交流電圧が印加されるとし、COIL 2に誘導される電流を求めます。

Fig3、4にCu Box上の渦電流密度強度分布と空間磁束密度強度分布の解析結果を示します。Table Iで、従来の2ポテンシャル法と本例のマルチポテンシャル法を比較します。解析結果はほぼ一致しています。一方で、解析時間はMatrix MakingとPost-processingで時間が短縮されています。Matrix Makingにおけるトータルと変形ポテンシャル領域の境界面での磁場積分、Post-processingにおける空間磁場の計算で差が出たものと思われます。計算量はCOIL要素数に比例して増えますので、複雑なCOILを定義した場合は大きな差が出てきます。

なお、本方法と直接関係がありませんが、THIN-ELEMオプションを使用しています。その結果、ICCG法の収束回数が823から401と減り、計算時間は6割程度となっています。

Fig.2 解析モデル

Fig.3 渦電流密度強度分布

Fig.4 磁束密度強度分布

Table I. 計算結果と計算時間

2-potentialMulti-potential
コイル電流(A)Ⅰ1(実部)31.341331.3413
Ⅰ1(虚部)-21.6255-21.6262
Ⅰ2(実部)-2.0858-2.0838
Ⅰ2(虚部)1.19801.1992
CPU Times ( s )Matrix Making16.414.0
Post-processing20.916.8

本手法は、スライド法の場合を含め、EMSolution r10.2.3以降で利用できます。

この先は会員の方のみご覧いただけます。

既存ユーザのログイン