モータの電磁力起因による騒音・振動問題は静音化の評価に必要なことです。検討するためにはギャップの磁束密度を時間・空間で周波数分解し,電磁力密度を空間次数(変形次数)と時間次数で表すことで,電磁力密度が大きくなる空間次数と時間次数を評価することができます。
一方,モータケースや固定台も含めた騒音・振動を評価するには,電磁力を振動・音響解析に受け渡して解析することが有用です。この方法では,加振されるモードだけでなく実際の変形や音の伝搬を評価することができます。モータコアはモータケースに焼き嵌めで入れられることが一般的ですが,バックコアの形状(モータケースとの接触面の違い)によってはケースに伝わる電磁力を低減できる可能性や,ケースの固定台の位置によっても音・振動の指向性を変えることで伝わるパワーを低減できる可能性があると考えられます。
ここでは,モータの電磁界―振動・音響連携解析(モータNV)事例を示します。EMSolutionでモータ解析を行い,ActranのWorkflowManagerにティース表面の電磁力を受け渡し,MSC Nastran/Actranで振動解析や音響解析を行います。ティース表面の電磁力出力方法として,指定面要素の節点の節点力を別ファイルに出力する機能を実装しましたので,併せて紹介します。
解析モデルとして,図1に示す電気学会ベンチマークモータモデル「D1モデル」を使用します。図1(a)に,モデル全体を,(b)にMSC Apexによりメッシュ作成した二次元メッシュ図(1/2モデル)を示します。解析条件は定格条件である4.4Arms, =20deg, 1500min-1で通常の負荷解析を行います。図2に解析結果であるモータ全体の電磁力分布図を示します。電磁力は磁石表面に大きな値が発生していますが,今回注目するのはティース表面の電磁力になります。電磁力は磁性体表面に大きな力が発生していることが確認できます。図3にティース表面の電磁力分布図を示します。磁石表面に面要素(二次元解析であるため線要素)をあらかじめ作成し,節点力NODAL_FORCEの出力指定をすることでsurface_forceファイルとして出力することができます。これより,ティース表面の電磁力は径方向電磁力が非常に大きいことが確認できます。トルク成分となる周方向電磁力は径方向電磁力よりも小さいことが知られていることから,径方向電磁力=電磁加振力として評価されることが一般的です。
EMSolutionで出力された電磁力等のデータをActran EM Noise WorkflowManagerに受け渡す方法について説明します。 EMSolutionでの二次元解析結果は,軸方向に一層積み上げた三次元形状として出力されますので,EM Noise WorkflowManager用に二次元メッシュ(三角形と四角形要素)のデータに変換する必要があります。EM Noise WorkflowManagerはI-deasユニバーサルファイルフォーマットを読み込むことが可能ですので,I-deasユニバーサルファイルフォーマットで出力した結果ファイルを専用のファイルコンバータプログラムで変換する必要があります。使用するデータファイルは,
ティース表面電磁力は,surface_forceファイルに含まれています。ステータ全体の電磁力分布からティース表面メッシュの電磁力をWorkflowManagerで抽出することも可能です。 図4にWorkflowManagerでの電磁力読み込み例を示します。 設定方法は,EM Noise WorkflowManagerの「Electromagnetic Model」タブから,
次に,「Space/Frequency Transform」タブに移動します。DFTにより時刻歴データを周波数データに変換します。ティース表面電磁力分布ファイルが複数条件(回転数)あると,回転数ごとのDFT結果を表示できます。
「DFT:Harmonic」より,周波数次数成分を設定すると,右ウィンドウに電磁力の周波数と回転数のグラフが表示されます。
「Space Orders」で空間次数を設定すると,右ウィンドウに電磁力の空間次数マップが表示されます。
図5にWorkflowManagerでのDFT結果ウィンドウ例を示します。
ここまでで音・振動解析へ受け渡す準備が整いました。後は解析目的に合わせて電磁力データをファイル出力します。参考までに図6に振動解析モデルを示します。
振動解析は「Structural Model」タブと「Structural Analysis」タブで,音響解析は「Acoustic Model」と「Acoustic Analysis」タブで設定します。振動解析と音響解析の設定方法や解析方法の詳細は,エムエスシーソフトウェアにご連絡ください。
以上のように,Actran WorkflowManagerを使用すると,少ない手順で簡単に電磁力分布データを振動,音響解析用のデータにビジュアルで示しながら変換することが可能です。
MSC製品のMSC NastranとActranを用いて振動解析および音響解析を行う方法は,図7に示すように幾つか用意されています。ここではよく使用されているNastranでの振動解析からActranでの音響解析を行った例を紹介します。
振動・音響解析結果を示します。
まず,MSC Nastran SOL103固有値解析およびSOL111モーダル周波数応答解析例を示します。図8にモータモデルのモード形状の確認を,図9にモータモデルの主は数応答の確認例を示します。これより,励磁されやすいモードは3700Hz付近で,空間的には4次のようなモードで変形していることが確認できます。
MSC Nastranの結果をActranに受け渡し,音響解析した例を示します。参考までに図10に音響解析モデルを示します。音響解析はモータ外側の空気メッシュの作成が必要ですが,Actranだと構造モデルの周囲に周波数によって適切なメッシュを自動生成することができます。
図11に3700Hz時の音圧マップを示します。音の伝わり方に指向性があることが確認できます。これは振動解析だけではなかなか推測が難しく,音響解析を行うことで明らかになるといえます。図12に構造振動モード寄与と音響放射効率について示します。音響への寄与が高いモードは,振動の寄与が高いモードと放射効率が高いモードから推察することができます。今回評価した3700Hzの応答は、構造の振動モード(モード12:3693Hz)付近の応答であり、振動モードの寄与も音響放射効率も高くなっています。他の振動モード(例えばモード8:1885Hz)でも振動モード寄与が大きい場合もありますが,音響放射効率が低く、音にはつながらないモードということが判断できます。
以上のように, EMSolutionで計算した電磁力を入力としてMSC Nastran/Actranで振動・音響解析を実行する事例を紹介しました。モータは小型化,高効率化だけでなく,静音化も重要な設計指標となっていますので,電磁界解析を使用した振動・音響解析での評価にお使いいただければと思います。
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