電磁界解析ソフトウェアEMSolution

直流ブラシレスサーボモータの解析
(スイッチ機能を使用)

概要

EMSolutionのNETWORKモジュールにスイッチ機能を追加しました。その検証のため電気学会の直流ブラシレスサーボモータのベンチマーク問題[文献]を解析しましたので合わせて報告します。

解説

解析モデルをFig.1に示します。二次元解析とし、軸長を37.5mmとします。対称性を利用し、1/4領域を解析します。90度反対称周期境界条件を 用います。固定子と回転子のギャップは0.8mmで4層に分割し、周方向に1度の等分割としています。ギャップ中心にスライド面を設定し、回転運動を模擬 します。各固定子スロットの巻数を100とし、図のように相順を与えます。 Fig.1の回転子位置を電気角0度とし、回転は図で時計回りとします。磁石は一様に0.9Tに着磁されているとし、B-Hカーブ等材料物性は文献のとお りとします。時間ステップは、1度回転する時間間隔としました。

Fig.1 解析モデルとメッシュ

Fig.2に解析に用いる電気等価回路を示します。電圧源(Vu, Vv, Vw)には30V直流電圧を与えるとします。各相のスイッチ(Su1, Su2, Sv1, Sv2, Sw1, Sw2)の電気角に対するOn(閉)-Off(開)状態をFig.3に示します。1側のスイッチがOnのとき、直流電圧が回路に加わり、2側のスイッチが Onのとき、導通となります。両方のスイッチがOn状態になることはありません。 計算におきましては、On、Off状態のスイッチの抵抗値を0、100kΩとしてスイッチを模擬します。巻き線抵抗は抵抗値(Ru, Rv, Rw)を等しいとし、計測値の平均値7.9567Ωとしました。

Fig.2 電気等価回路

Fig.3 各スイッチのOn-Off状態

印可電圧30Vで回転数が600rpmの時の電流波形の解析結果をFig.4に示します。電気角二周期目で定常に達しますので、二周期目の結果を示します。巻線間の電流が想定どおり転流していることがわかります。
Fig.5に回転数が1304.4rpm(無負荷時)の場合を示します。Fig.6にトルク波形を示します。これらの結果は、[文献]での解析結果とほぼ一致しています。例えば、[文献]で報告されている600rpm時の平均トルク値0.216Nm(機関A)に対して、 0.215492Nmとなっています。([文献]において、永久磁石の磁化の強さに起因する実験値と解析値の不一致が報告されています。ここでは、計算条件が同じ解析値と比較しています。)

Fig.4 巻線電流波形
(600rpm、印可電圧30V)

Fig.5 巻線電流波形
(1304.4rpm、印可電圧30V)

Fig.6 トルク波形(印可電圧30V)

ここでのスイッチの取り扱いは、抵抗値の時間的変化によって行っています。今の場合は、Off時の抵抗値を100kΩとして解析しました。電流遮断時に電圧ピークが発生します。
例えば、本ベンチマーク問題での誘起起電力波形を見ますと、Fig.7のようになります。(Fig.7は[文献]で報告されている誘起起電力波形と縦軸が 異なります。ここでは、各相全ターンの誘起起電力を示します。)この、電圧ピークの幅や高さは、計算時間ステップに依存すると考えられます。電流の転流は 解析時間ステップよりも短い時間で起こってと考えられ、詳細には時間ステップを十分に小さなもので行う必要があると考えられます。 Off時の抵抗値はOff時に流れる電流値が十分小さくなる程度に、十分大きくしておく必要があります。
Fig.8にコイルに供給されるトータル電力をコイル誘起電圧コイル電流より求めたものと、電源出力から抵抗(巻線抵抗を含む)ロスを引いたものとの比較を示します。何れも、出力された電流、電圧を単純に各ステップで加え合わせ平均を取りました。
本来、両者は一致する必要がありますが、今の場合、平均で前者が4%程度小さくなっています。この差は、スパイクが起こる過渡時に発生していま す。電流の転流時以外はよく一致していますが、スパイクそのものの解析には不十分と考えられます。なお、トルクによって求められる機械仕事率は、前者のコ イル誘起電圧コイル電流によって求めたものと非常によく一致しています。

Fig.7 誘導起電力波形(600rpm,印可電圧30V)

Fig.8  コイル供給電力

以上のように、スイッチング時に若干の問題がありますが、本ブラッシュレスモータの解析に十分適用できることをご理解いただけたかと存じます。他のスイッチを含む回路にも適用できると考えます。
本スイッチの機能はEMSolution ver9.8.1よりリリースいたします。ご活用いただければ幸いです。なお、本機能はNETWORKモジュールが必要となります。

参考文献

電気学会技術報告 第565号 「回転機の電磁界高度数値シミュレーション技術」1995年10月

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