一般にモータを解析する場合、巻き線の形状を正確に表すためには、三次元のモデル化が必須となります。しかし、二次元メッシュを積み上げて三次元メッシュを作成するような方法ではコイル形状に合わせたメッシュ分割が必要なため非常に手間が掛かります。また、コイルの断面形状により、ELMCUR、SDEFCOIL等の磁場ソースを使い分けなければなりません。 そこで、ここではCOILをモータの巻き線として適用できるかどうかを示します。
COILはロータやステータのメッシュ分割とは独立に定義することができるため、巻き線を簡便にモデル化できます。例として、永久磁石モータのコギングトルク二次元解析の90度1/4反対称二次元モデルを、見やすくするために180度対称二次元モデルととして積み上げにより三次元に拡張し、三相交流を与えたモデルを使用します。磁場ソースとして、比較基準となる磁場ソースELMCUR、COILのブロック電流要素であるGCEと線電流要素であるFGCEをコイルに適用して解析した例を示します。また、通常バルクの導体に電流を流す場合に使用されるPHICOILについても示します。
Fig.1に、ELMCUR、COILのGCE(ARCも使用。以下GCEモデルと表記)とFGCE(FARCも使用。以下FGCEモデルと表記)を適用した解析メッシュをそれぞれ示します。なお、ELMCURモデルとPHICOILモデルは同じメッシュを使用しています。解析メッシュはモデルの対称性より、角度方向、軸方向共に1/2の1/4モデルです。ここで、ELMCUR、PHICOILは対称性を考慮して、解析領域内のコイルのみメッシュ分割しています。ELMCUR、PHICOILではコイルを有限要素メッシュで作成しなくてはならないため、ここではコイルエンドを無視しています。Fig.1のように作成した場合、コイル電流はZ軸方向に流れますが、Z軸の境界下面から上面までコイルを作成しています。これは、上下面の境界条件をBn=0として、電流密度の連続の式
$$\nabla \cdot J_o = 0$$
を満足するようにしているためです。このとき、コイル電流は上下面に垂直に入ります。一方、COILで作成する場合は、GCE、ARCは断面が四辺形でし か作成できないため、ELMCURで定義したような台形断面のコイル形状を正確に表現することはできません。そこで、簡易的にそれぞれのコイル中心に GCEが通るように作成しています。FGCEモデルではそれぞれのコイル中心にFGCEを与えています。COILでは有限要素メッシュの対称性が適用され ないため、全てのコイルをモデル化する必要があります。COILもELMCUR、PHICOIL同様に電流密度の連続の式を満足するように定義しなければ なりませんが、対称性を考慮できないため、コイルエンドとして全てつないで閉ループにしています。GCEモデルではコイルエンドであるARCとコイルであ るGCEを、ARCを使用してつなぎ、FGCEモデルではコイルエンドであるFARCとコイルであるFGCEを直角につないでいます。ここで、コイルエン ドは実際の形状がわかりませんので、仮想的にステータ表面から5.25mm上部でつないでいます。また、FGCEモデルを軸方向のCOILをステータ表面 から遠方5mまで延長してつなぎ、ステータ表面に与えるコイルエンドの影響を無くしたもの(以下、FGCE_farモデルと表記)も作成しました。なお、 COILはCOIL要素が交わったり同じライン上に定義したりしても、シリーズごとに計算を行うため電流の流れに影響はありません。
Fig.2に、GCEモデルで定義したU, V, Wコイルを示します。
解析条件は、30Turnのコイルに周波数100Hzの三相交流をそれぞれ実効値2A与え、ロータの回転数を3,000rpmとします。ロータ、ステータ は積層鉄心とし、渦電流は考慮しないものとします。永久磁石の磁化は1.2T、磁石の渦電流損は計算するために導電率6.944´105S/mを与えています。
Fig.3にELMCUR、FGCE、FGCE_farの各モデルで得られた磁束密度分布を、Fig.4にそれらの磁石の渦電流ベクトル分布を示します。 どの磁場ソースでも同じ分布が得られ、磁場ソースによる差は見られません。磁石はバルクとして計算しているため、大きな渦電流ループができています。渦電 流は時間変化を追ってもその位置は変わらずステータスロットの箇所で大きく、その幅でループになっている様子がわかります。なお、PHICOILは曲がり や角があると電流が内側によりますが、今回のモデルではエンドコイルを無視して直線的に流れるため電流の偏りは起きず、ELMCURと同等にコイル断面に 均等な電流分布となります。
Fig.5, 6にそれぞれのモデルで得られたトルク波形と磁石一個分のジュール発熱波形を示します。TableIにそれぞれのモデルで得られた平均トルクと磁石一個あ たりの渦電流損を示します。これらを見ると、このモデルでは、多少の違いはありますが磁場ソースに関わらずよい一致を示してします。値は小さいですが ELMCURモデルとPHICOILモデルの波形とFGCEモデルとGCEモデルの波形では多少のずれが見られます。これはFGCEモデルとGCEモデル ではコイルエンドも考慮しているためであると思われます。また、ステータ表面に与えるコイルエンドの影響を無くしたFGCE_farモデルでは、 ELMCURとPHICOILに非常に良く一致しています。これより、コイルのATが一致していれば、ELMCURのようにコイル形状を忠実に表していな くても、非常に簡易的にFGCEの線電流で近似して十分であるようです。
磁場ソース | 平均トルク(Nm) | 磁石一個の時間平均発熱(W) |
---|---|---|
ELMCUR | 1.1589E-01 | 2.7740E-03 |
PHICOIL | 1.1588E-01 | 2.7739E-03 |
GCE | 1.1581E-01 | 2.7743E-03 |
FGCE | 1.1550E-01 | 2.7732E-03 |
FGCE_far | 1.1586E-01 | 2.7740E-03 |
次に、磁石にオーバーハングがある場合のモデルを用いて、ELMCUR、FGCEとFGCE_farの各モデルを使用した解析例を示します。オーバーハン グはステータ幅より上下に10mmとしています。これにより、コイルエンドを考慮したFGCEモデルでは、オーバーハング部分にコイルエンドがあることに なります。Fig.7にELMCURモデルとFGCEモデルの解析メッシュを示します。
解析結果として、Fig.8、9にそれぞれの磁束密度分布図、磁石の渦電流ベクトル分布図を示します。最大磁束密度はステータのオーバーハングしているス ロット部分で2.7Tと非常に高くなっています。これは、オーバーハングの影響によるものだと考えられます。一見するとELMCUR、FGCEモデルと FGCE_farモデルの結果に違いは無いように思えます。
しかし、ジュール発熱波形(Fig.10)には差は見られませんが、トルク波形(Fig.11)にはわずかですが違いが出ています。トルクはコイルエンド があるFGCEモデルではELMCUR、FGCE_farモデルより小さくなっています。TableIIに平均トルクと磁石一個の時間平均ジュール発熱を 示します。値としては小さいですが、コイルエンドの有無の影響が出ていると言えます。
また、オーバーハング無しのELMCURモデルの結果と比べて見ると、トルク、ジュール発熱共にオーバーハング無しの結果よりもかなり大きくなっています。
磁場ソース | 平均トルク(Nm) | 磁石一個の時間兵員発熱(W) |
---|---|---|
ELMCUR | 1.4219E-01 | 3.6578E-03 |
FGCE | 1.3433E-01 | 3.6567E-03 |
FGCE_far | 1.4191E-01 | 3.6574E-03 |
以上より、モータ巻き線としてCOILが適用可能であることを示せたと思います。COILは直方体であるGCEを使用せずとも、線電流近似であるFGCEを使用すれば、トルク、磁石の渦電流損計算には十分であると思われます。ただし、コイルエンドの影響が大きくなる場合には注意が必要です。また、今回のモデルは巻き線が分布巻きでしたが、集中巻きのようにコイルエンドのモデル化が必要な場合でも、COILを使用すれば作成が容易にできます。
また、コイルエンドを考慮すると、ステータ表面に垂直に入る磁束ができるため、積層面内に発生する渦電流損も考えなければならず、鉄損が大きくなるものと思われます。その場合は、鉄損算出法で説明した、均質化法を使用して積層鉄心の面内方向に発生する渦電流損も考慮したほうがより実態に近くなると思われます。ご使用の際に参考になれば幸いです。
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