電磁界解析ソフトウェアEMSolution

Jiles & Athertonモデルによる
ヒステリシス解析

概要

EMSolutionでは,"非線形二次元異方性磁気特性""プレイモデルによるヒステリシス解析"など磁気特性の取り扱いとして様々な機能を提供してきました。EMSolutionに従来から搭載されているInverse Jiles-Atherton Vector Hysteresis Modelについて事例を紹介します。

解説

 ヒステリシスモデルとしてよく知られたJiles-Atherton Modelは磁束密度$B$が磁場強度$H$の関数として表されますが,$A$-$\phi$法で適用しやすくするために, $H$が$B$の関数として表現されるように修正されたモデルが,Inverse Jiles-Atherton Hysteresis Modelであり, さらにベクトル化(二次元)されたモデルが,Inverse Jiles-Atherton Vector Hysteresis Modelとなります。
 Inverse Jiles-Atherton Vector Hysteresis Modelでは,現時刻での$B$および$H$が与えられているとき,変化分$dB$に対する$dH$が求まります。このことから,ヒステリシスループは,$B$および$H$に関してローカルメモリであり,それ以前の履歴によりません。フィッティングパラメータは,一方向あたり5パラメータしかないためデータ設定は簡単ですが,現実の測定データに対して同定するために,幾つか改善案が提案されています。例えば,Langevin関数と仮定しているanhysteretic磁化曲線をより近似精度の高い関数に変更する方法や,定数とされているパラメータを磁場強度の関数とする方法などが考えられます。なお,EMSolutionに実装しているInverse Jiles-Atherton Vector Hysteresis Modelは基本的なモデルであるため,マイナーループを正しく表現できないことが論文等で指摘されています。改善版をあるようですが実装していないため,メジャーループのみの解析に限られますが,適用機器によっては十分活用できると考えております。

リングモデルのヒステリシス解析

 図1に示すリングモデルで,二次元静磁界のヒステリシス解析を行います。リングモデルでは反磁界が小さく,磁気特性の特徴が顕著に現れます。最初に消磁状態とした磁性体リングにコイル電流を流し,磁性体の磁束密度を求めます。コイル電流は線形にゼロから最大値まで増加させ,その後,ゼロまで減少させます。
図2に磁気特性が等方性ヒステリシスの場合の磁束密度分布の時間変化を示します。磁束密度分布は同心円状で周方向に一定であり,等方性を確認することができます。ヒステリシス解析であるため残留磁化の影響により,コイル電流上昇時と下降時では振る舞いが異なり,コイル電流ゼロとなる(d)10sの時点でも残留磁束が見られます。本解析の過程は,着磁,消磁過程に相当し,本ヒステリシスモデルが磁石特性に同定できれば,磁石の着磁および消磁過程を模擬できるのではと考えます。次に図3にX方向を圧延方向とした異方性ヒステリシスの場合の磁束密度分布を示します。X方向とY方向で磁束密度分布の偏りが見られます。

(a) 全体モデル

(a) 2.5s

(b) 5s

(c) 7.5s

(d) 10s

図2 等方性ヒステリシスを持つリングモデルにおける磁束密度分布 [T]

(a) 2.5s

(b) 5s

(c) 7.5s

(d) 10s

図3 異方性ヒステリシスをもつリングモデルにおける磁束密度分布 [T]

図4 ヒステリシス磁気特性

図5 電流と磁束量の時間的な変化

簡単ですが,Inverse Jiles-Atherton Vector Hysteresis Modelによるヒステリシス解析について紹介しました。EMSolutionで実装しているヒステリシスモデルであるプレイモデルと同様の解析が可能で,同定するためのフィッティングパラメータも少なく済むため,事前検討や簡易的にヒステリシスの影響を検討するのに使用できるのではと思っております。

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