"時間周期問題の定常解への高速収束"や"簡易版時間周期法による誘導電動機の定常解析"に示しましたように,一般に同期機は半周期性が成り立ち,誘導機の場合でもステータ,ロータ毎に半周期性が成り立ちます。
1周期性のある場合,渦電流損は半周期ごとにピークを持つ波形となります。鉄損を算出する場合の積層方向の渦電流損も同様に考えることができ,半周期分を2倍して1周期分とする場合と同等となります。一方,ヒステリシス損は磁束密度波形から算出する場合,下図のようにpeak to peak値を使用して最大のヒステリシス損ループを計算するため,1周期分のデータが必要となります。よってヒステリシス損を半周期で算出する方法として,Fig.1で半周期後に前半の周期が上下反転して後半の半周期が構成されているとした場合,前半周期を使用して後半周期のデータを作成すればよいということになります。
1周期はN分割されており,最初のステップの値をB0,半周期目の値をBn/2とし,peak to peakの平均がゼロで半周期性が成り立っている場合(Fig.1青横線),半周期後のiステップ目はBi = -B n/2+i と表せます。直流重畳している場合も考慮して考えますと,半周期後の1ステップ目Bn/2+1は,B0とB1の差分を足すことにより得ることができ,順に足していくことにより後半周期を表現できます。
鉄損のように1周期をN分割して時間平均して計算する場合,時系列データはN個必要ですが,半周期性を利用するには半周期目のステップのデータも必要であるため,N/2+1のデータが必要となります。
なお,厳密には同期機の場合,ロータ側は1周期性で直流重畳されているので半周期性は成り立たず,駆動条件によってはその差が大きくなることが考えられます。そのため,同期機には厳密にはこの方法は適用できません。しかし鉄損自体の精度を考えますとそれ程気にする差ではないかもしれませんが,注意は必要であると思われます。以下に示す例題の二番目でIPMモータの鉄損算出に適用し,評価します。
例として,まずはポスト処理による鉄損算出に示す簡単なモデルで検証します(Fig.2)。算出法①は磁束密度の最大値から求める方法,算出法②は磁束密度波形から求める方法を表しています。Table.1に1周期で算出した鉄損と前半周期を使用して後半周期を補間した鉄損を示します。入力が正弦波であるため半周期性が成り立っており,FEMによる面内方向渦電流損はもちろん,積層方向渦電流損も一致しています。同様の理由でヒステリシス損も一致しています。
Table1 電気学会モデル 鉄損
一周期 | 半周期 (前半周期使用) | |||
算出法① | 算出法② | 算出法① | 算出法② | |
面内方向渦電流損 (W) | 0.957 | 0.957 | 0.957 | 0.957 |
積層方向渦電流損 (W) | 0.403 | 0.483 | 0.403 | 0.483 |
ヒステリシス損 (W) | 1.656 | 1.656 | 1.658 | 1.656 |
全損失 (W) | 3.016 | 3.097 | 3.019 | 3.097 |
次に,時間周期問題の定常解への高速収束でも使用した,IPMモータモデルに適用します(Fig.3)。ロータ側では厳密には半周期性は成り立ちませんが,その実用性を検証してみます。ここでは簡単のため二次元モデルでの電流源解析とし,最大トルク運転条件での鉄損を算出します。電磁鋼板は上記モデル同様50A1300とします。なお,二次元解析であるため磁石の渦電流損は考慮しないものとします。
1周期で算出した鉄損と,半周期性を利用してその前半周期,後半周期を使用して算出した鉄損をTable.2に示します。これより,やや差は見られますが,どちらの半周期の結果も1周期のものと良い一致を示しています。同期機ではこの程度の差が出るものとして利用頂ければと思います。
Table2 IPMモータ 鉄損
一周期 | 半周期 | |||
前半周期 | 後半周期 | |||
ロータ | 積層方向渦電流損 (W) | 379.97 | 379.97 | 379.99 |
ヒステリシス損 (W) | 103.57 | 111.35 | 111.36 | |
ステータ | 積層方向渦電流損 (W) | 2787.48 | 2787.48 | 2785.92 |
ヒステリシス損 (W) | 5324.34 | 5324.28 | 5328.60 | |
全損失 (W) | 8595.36 | 9603.08 | 8605.87 |
誘導機ではすべりがあるためステータは電源周波数で,ロータはすべり周波数で鉄損を計算するのが良いと考えられます。その場合,定格運転時のようにすべりが小さい場合,すべり周波数は電源周波数に比べて小さくなり,ロータの1周期分を計算するには多大なステップ数がかかってしまいます。しかし半周期性を利用すれば,その半分の周期で算出することができます。
例として,かご型誘導機の二次元解析におけるロータバーとエンドリングの取り扱いで使用したモデルに適用します(Fig.4)。ギャップ部は180度を408メッシュ分割しており,1メッシュ1ステップで解析しているので,電源周波数は50Hzですべり0.25の場合,電源周波数での1周期は306ステップ,すべり周波数でのそれは1224ステップとなります。半周期性を利用すれば,それぞれ154ステップ,613ステップで済むことになり,計算時間を半分にできます。
算出した鉄損をTable.3に示します。ヒステリシス損計算時にpeak to peakは一つのみとして判断されるため,電源周期でのロータのヒステリシス損,すべり周期でのステータのヒステリシス損は正しく計算されていませんが,参考までに()内に示します。先に述べたように,渦電流損はどちらの周期に関わらず時間平均するためほぼ同じ値となりますが,ヒステリシス損では違いが出てきていることがわかります。ロータ,ステータ別に比較すると半周期性を利用して算出した結果は1周期性でのそれと良く一致しています。
Table3 誘導電動機 鉄損
ステータ | ロータ周期 | ||||
一周期 | 前半周期 | 一周期 | 前半周期 | ||
ロータバー | 渦電流損 (W) | 37.04 | 37.08 | 37.01 | 37.01 |
ロータ | 積層方向渦電流損 (W) | 0.95 | 0.95 | 0.95 | 0.95 |
ヒステリシス損 (W) | ( 0.55 ) | ( 0.50 ) | 0.95 | 0.95 | |
ステータ | 積層方向渦電流損 (W) | 3.18 | 3.17 | 3.19 | 3.19 |
ヒステリシス損 (W) | 6.91 | 6.88 | ( 5.31 ) | ( 7.44 ) | |
全鉄損 (W) | ( 11.58 ) | ( 11.49 ) | ( 10.39 ) | ( 12.52 ) |
以上,半周期性を利用して1周期の半分のステップ数で鉄損を算出できることを示しました。上記例の誘導機ですべりが小さい場合や,PMモータ をPWMインバータ波形で駆動する場合,1周期計算するのに必要な計算ステップ数は多大になってしまうため,半周期性の利用価値があると考えられますので,本機能をご利用ください。
基本的な設定である,鉄損計算用パラメータはポスト処理による鉄損算出と同様です。 AVERAGEオプションを-1とすると,半周期で鉄損を算出します。
STEP_INTERVALを一周期分Nステップ設定しますが,INITIAL_STEP,LAST_STEPには,半周期のステップN/2+1として設定します。 このとき,INITIAL_STEP,LAST_STEPは計算してあるステップ中であればどの範囲を指定しても構いません。
・ input2D_40_5_static.ems : 初期値用静磁場解析
・ input2D_40_5.ems : 過渡解析
・ inputPost2D_40_5.ems : 鉄損計算用 一周期
・ inputPostHalf2D_40_5.ems : 鉄損計算用 半周期
・ pre_geom2D.neu
・ rotor_mesh2D.neu
・ inputNETWORK_Y_AC.ems : 初期値用交流定常解析
・ inputNETWORK_Y_1125rpm.ems : 過渡解析
・ inputPostNETWORK_Y_1125rpm.ems : 鉄損計算用 一周期
・ inputHalfPostNETWORK_Y_1125rpm.ems : 鉄損計算用 半周期
・ pre_geom2D.neu
・ rotor_mesh2D.neu
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