電磁界解析ソフトウェアEMSolution

ポスト処理による鉄損算出

概要

電気機器の損失の主成分である積層鉄心に発生する鉄損を電磁気解析で算定する方法として、現在様々な手法が考案されています。 簡便な方法として、計算で得られた磁束密度からポスト処理で算出する方法があります。 EMSolutionには、ポスト処理で近似的に鉄損を算出する機能があります。

解説

鉄損計算式は、文献(1)より、磁束密度の絶対値の最大値を用いる方法と、磁束密度波形から直接求める方法を採用しております。 下記の式中では直交座標系$(x, y, z)$としていますが、円筒座標系$(r, θ, z)$とすれば回転磁界も考慮できます。 文献(1)に基づき,(1)式に示されるように、鉄損$W_i$ は渦電流損$W_e$ 、ヒステリシス損$W_h$ に分離して算出します。 さらに渦電流損$W_e$は、電磁鋼板の厚み方向(積層方向)に還流する$W_{e\perp}$と、鋼板面(積層面内方向)を流れる鋼板面(積層面内方向)を流れる$W_{e\parallel}$に分けられます。

$$W_i = W_e + W_h = W_{e\perp} + W_{e\parallel} + W_h \tag{1}$$

積層方向の渦電流損$W_{e\perp}$、ヒステリシス損$W_h$は、FEM解析により得られた磁束密度の履歴からポスト処理で計算されます。積層面内の渦電流損$W_{e\parallel}$は、FEM解析により得られた渦電流$J_e$を用いて直接得られます。

算出法①:磁束密度の最大値から求める方法

単一周波数$f$ 、振幅$B_{max}$(磁束密度の最大値)の交番磁界が印加された場合、鉄損は以下の鉄損推定式から計算されます。

$$\displaystyle W_i = W_{e \parallel} + ( w_{e \perp} + w_{h} ) \Delta V_i = W_{e \parallel} + \left( K_e f^\alpha B_{max}^\beta + K_h f B_{max}^\gamma \right) \Delta V_i \tag{2}$$

ここで、$\Delta V_i$ は有限要素iの体積($m^3$)を表し、$K_e$は渦電流損係数($W/kg/T^2/Hz^2$)、$K_h$はヒステリシス損係数($W/kg/T^2/Hz$)を表します。また、$\alpha$ 、$\beta$ 、$\gamma$ は累乗を表す係数で、デフォルトでは $\alpha = \beta = \gamma = 2$と設定されます。磁束密度波形が正弦波形を仮定しているため、振幅を磁束密度の最大値の絶対値として算出します。 積層面内の渦電流損$W_{e\parallel}$は、FEM解析より次式で直接計算されます。

$$\displaystyle W_{e \parallel} = \frac{1}{T} \int^T_0 \int_{iron} \frac{ | J_e |^2}{\Sigma_\parallel} dv dt \tag{3}$$ $$\Sigma_\parallel \equiv \alpha \sigma_s  、  \Sigma_\perp \equiv 0 \tag{4}$$

ここで、$T$は周期$(s)$、$\alpha$は占積率、$\sigma_s$は鉄部の導電率$(S/m)$を表します。これによりFEM解析では積層面内方向の渦電流のみを占積率を考慮して計算することになります。

算出法②:磁束密度波形から直接求める方法

磁束密度波形が正弦波で無い場合、またマイナーループを含む場合には、(2)式の近似精度は高くないため、以下に示す磁束密度波形から直接求める方法が有効となります。このときの積層方向の渦電流損$W_{e\perp}$は、以下の式で計算されます。

$$\displaystyle W_{e \perp} = \frac{K_e D}{2 \pi^2} \int_{iron}\frac{1}{N}\sum^N_{k=1} \Biggl[ \biggl(\frac{{B_x^{k+1} – B_x^k}}{\Delta t}\biggr)^2 + \biggl(\frac{{B_y^{k+1} – B_y^k}}{\Delta t}\biggr)^2 \Biggr] dv\tag{5}$$

ここで、$D$は鉄心の密度($kg/m^3$)、$N$は一周期あたりの反復(サンプリング数)回数、 $\Delta t$は時間刻み$(s)$、$B$の上添え字の$k$は時間ステップを表します。(5)式で表される渦電流損には、積層方向である磁束密度のz成分に関する項が除かれています。これは、積層方向の磁場により誘起される積層面内を流れる渦電流損を表しており、FEM解析より(3)式で求められるためです。 また、ヒステリシス損$W_h$は以下の式で計算されます。

$$\displaystyle W_h = \frac{K_h D}{T} \sum_{i=1}^{N_E} \frac{\Delta V^i}{2} \Biggl( \sum_{j=1}^{N_{px}^i} ( B_{mx}^{ij} )^2 + \sum_{j=1}^{N_{py}^i} ( B_{my}^{ij} )^2 + \sum_{j=1}^{N_{pz}^i} ( B_{mz}^{ij} )^2 \Biggr)\tag{6}$$

ここで、$N_E$は鉄心領域中の要素数、$N_{px}^i$、$N_{py}^i$、$N_{pz}^i$はi 番目の有限要素における磁束密度の各成分の時間変化に対する極大・極小値の個数、$B_{mx}^{ij}$ 、$B_{my}^{ij}$、$B_{mz}^{ij}$はメジャーおよびマイナーループの振幅であり、Fig.1に示すような方法で、磁束密度波形の全極大・極小値より決定しています。その際、あるループにおける磁束密度の振幅の2乗が2回加算されるため、加算後に2で割っています。これは、メジャーループとマイナーループのヒステリシス損を同一のアルゴリズムで求めています。

Fig.1(6)式におけるメジャー及びマイナーループの振幅決定法

なお、鉄損係数$K_e$、$K_h$は、計測された各周波数$f$、磁束密度$B$における鉄損$W_i$から、代表磁束密度(例えば$B_m =1T$)での$f(Hz)-W_i/f (W/kg/Hz)$グラフを作成し、それを線形近似した傾きを$K_e$ 、切片を$K_h$として使用します。 また、積層鉄心を均質化法(PACKING)を適用して解析し鉄損を算出する場合、「均質化法による積層鉄心の解析と積層鉄心鉄部の磁束密度の出力」で説明した積層鉄心鉄部の磁束密度を使用します。

次に具体例として、文献(1)の「鉄損計算法検証用モデルの解析および実験」の直流ブラシレスモータを使用して鉄損を算出したものを示します(Fig.2)。このモデルは、ステータ、ロータ共に無方向性電磁鋼板50A1300からなる積層鉄心で、コイル巻き線なしで強制的にロータを回転させたときのロータの永久磁石による鉄損を測定し、解析により得られた結果と比較、検証するためのモデルです。鉄損計算には、円筒座標の磁束密度成分を用いるため、$B_r$の一周期である機械角180度計算した結果を用いました。積層鉄心を導電率ゼロの鉄心として扱った二次元、三次元非線形静磁場解析の結果と、積層鉄心を均質化法(PACKING)により近似した渦電流を含む非線形過渡解析の結果を示します。ここで、BHカーブは、L+C方向(圧延方向とその垂直方向の平均値)を使用し、積層方向はz方向です。ただし、占積率は文献中に明記されていないため、98.5%と仮定しました。 また、ロータの回転数は1500rpmで比較しました。

Fig.3に、ポスト処理により得られた三次元静磁場解析結果の積層方向の渦電流損とヒステリシス損分布を示します。 Fig.4に、それぞれの鉄損算出結果と実験値を比較して示します。Table Iにはその鉄損の内訳を示します。算出法①、②の結果と比べると、算出法①の方が値が小さくなっています。これは、磁束密度波形の歪みとマイナーループよるものと思われます。また、Fig.5に均質化法を適用した渦電流を含む三次元非線形過渡解析結果である面内方向の渦電流損分布を示します。値としては小さいですが上側の端部に渦電流が集中しています。

なお、算出法①では、印加磁場として交番磁界を想定しています。そのため、ロータの磁束密度は位置に対して時間変化していないにも関わらず、磁束密度の絶対値の最大値を使用しているため、実際には発生していない鉄損を算出してしまいます。そのため、ステータ部のみの値を用いて比較しています。積層鉄心に交番磁界を印加する簡単なモデルで解析した例を、「均質化法による積層鉄心の解析と積層鉄心鉄部の磁束密度の出力」に示しています。そこでは、算出法①、②ともに良い一致を示しています。

(a)XY平面図

(b)鳥瞰図

Fig.2 解析モデル(三次元解析用)

(a)渦電流損分布$W_{e \perp} (W/kg)$

(b)ヒステリシス損分布$W_h (W/kg)$

Fig.3 算出法②による三次元静磁場解析における鉄損分布

Fig.4 鉄損特性

Fig.5 三次元渦電流解析(Packing)における面内方向の渦電流損分布$W_{e\parallel} (W/m^3)$

今回使用した検証モデルの実機では、無方向性電磁鋼板50A1300をロータ・ステータ共に回積みして作成しています。さらに、接着剤により積層を作成し、磁気特性を劣化させる要因である応力や焼きばめの影響を除いています。そのため、実機の測定結果と解析結果が非常に良く合うものと考えられます。ただし、特にヒステリシス損に関しては、上記の鉄損推定法①、②とも磁束密度のべき乗に比例するというスタインメッツの式を基に計算します。 実際には、ヒステリシス損はヒステリシスループの面積より計算されるもので、それを考慮する他の提案手法(2)と比べると精度的に劣ると思われますので、ご承知の上お使いください。

参考文献

(1) 回転機の三次元電磁界解析高度化調査専門委員会: 「回転機の電磁界解析高度化技術」、電気学会技術報告、第942号 (2004)
(2) 回転機の電磁界解析高精度モデリング技術調査専門委員会: 「回転機の電磁界解析高精度モデリング技術」、電気学会技術報告、第1044号(2006)

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