電気機器の損失の主成分である積層鉄心に発生する鉄損を電磁気解析で算定する方法として、現在様々な手法が考案されています。 簡便な方法として、計算で得られた磁束密度からポスト処理で算出する方法があります。 EMSolutionには、ポスト処理で近似的に鉄損を算出する機能があります。
鉄損計算式は、文献(1)より、磁束密度の絶対値の最大値を用いる方法と、磁束密度波形から直接求める方法を採用しております。 下記の式中では直交座標系
積層方向の渦電流損
単一周波数
ここで、
ここで、
磁束密度波形が正弦波で無い場合、またマイナーループを含む場合には、(2)式の近似精度は高くないため、以下に示す磁束密度波形から直接求める方法が有効となります。このときの積層方向の渦電流損
ここで、
ここで、
なお、鉄損係数
次に具体例として、文献(1)の「鉄損計算法検証用モデルの解析および実験」の直流ブラシレスモータを使用して鉄損を算出したものを示します(Fig.2)。このモデルは、ステータ、ロータ共に無方向性電磁鋼板50A1300からなる積層鉄心で、コイル巻き線なしで強制的にロータを回転させたときのロータの永久磁石による鉄損を測定し、解析により得られた結果と比較、検証するためのモデルです。鉄損計算には、円筒座標の磁束密度成分を用いるため、
Fig.3に、ポスト処理により得られた三次元静磁場解析結果の積層方向の渦電流損とヒステリシス損分布を示します。 Fig.4に、それぞれの鉄損算出結果と実験値を比較して示します。Table Iにはその鉄損の内訳を示します。算出法①、②の結果と比べると、算出法①の方が値が小さくなっています。これは、磁束密度波形の歪みとマイナーループよるものと思われます。また、Fig.5に均質化法を適用した渦電流を含む三次元非線形過渡解析結果である面内方向の渦電流損分布を示します。値としては小さいですが上側の端部に渦電流が集中しています。
なお、算出法①では、印加磁場として交番磁界を想定しています。そのため、ロータの磁束密度は位置に対して時間変化していないにも関わらず、磁束密度の絶対値の最大値を使用しているため、実際には発生していない鉄損を算出してしまいます。そのため、ステータ部のみの値を用いて比較しています。積層鉄心に交番磁界を印加する簡単なモデルで解析した例を、「均質化法による積層鉄心の解析と積層鉄心鉄部の磁束密度の出力」に示しています。そこでは、算出法①、②ともに良い一致を示しています。
今回使用した検証モデルの実機では、無方向性電磁鋼板50A1300をロータ・ステータ共に回積みして作成しています。さらに、接着剤により積層を作成し、磁気特性を劣化させる要因である応力や焼きばめの影響を除いています。そのため、実機の測定結果と解析結果が非常に良く合うものと考えられます。ただし、特にヒステリシス損に関しては、上記の鉄損推定法①、②とも磁束密度のべき乗に比例するというスタインメッツの式を基に計算します。 実際には、ヒステリシス損はヒステリシスループの面積より計算されるもので、それを考慮する他の提案手法(2)と比べると精度的に劣ると思われますので、ご承知の上お使いください。
(1) 回転機の三次元電磁界解析高度化調査専門委員会:
「回転機の電磁界解析高度化技術」、電気学会技術報告、第942号 (2004)
(2) 回転機の電磁界解析高精度モデリング技術調査専門委員会:
「回転機の電磁界解析高精度モデリング技術」、電気学会技術報告、第1044号(2006)
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