従来EMSolutionでは, 任意閉曲線ループの鎖交磁束を出力する機能があり,閉曲線は節点番号で入力した節点を繋いだループ,もしくは線要素によるループで定義する必要がありまし た。しかし,これらは三次元解析時のみ定義可能で,二次元解析では定義できませんでした。この度,任意閉曲線を面要素にて定義することが可能となりました ので報告します。
この機能は任意面を鎖交する磁束に限らず,面要素毎に磁束密度の法線成分(面を鎖交する磁束/面積)を出力できるようにもしました。Fig.1に示す,EMSolutionベンチマークテストで採用しているTEAM Workshop Problem20のプランジャーモデルを使用し,本機能を紹介します。磁極にコイルが巻かれ,コイルはCOILで定義されています。解析は静磁場解析とし,コイルには1,000,3,000,4,500,5,000Aの電流が印加されます。評価面は磁極中心断面であるFig.1(b)に赤線で示す箇所とします。閉曲線ループと面は同じ場所に定義し,閉曲線ループの方向と面要素の方向を合わせています。なお,閉曲線ループは計算ループ毎に 線要素方向が全て同じ向き,面要素も面方向が全て同じ方向である必要があります。節点番号入力の場合は,入力節点番号の順番が線要素を構成する節点の順番,つまり閉曲線を構成する必要があります。本モデルはX=0,Y=0が対称面($B_n$=0)とした1/4モデルですので,X=0面,Y=0面上は線要素を定義する必要はございません。節点番号入力の場合も同様となりますが,定義しても結果は同じとなります。
節点番号入力,線要素入力,面要素入力の鎖交磁束結果をTable 1に示します。この時,outputファイルに出力される鎖交磁束は,メッシュ定義領域のみとなりますので,実際にはLoop1は4倍,Loop2は2倍となります。また,面要素入力は鎖交磁束を面要素の全面積で割算した平均磁束密度も出力しますので,それも合わせて示します。全ての結果が一致していることが確認できます。平均磁束密度を見ると,印加電流4,500AでLoop1は2Tに達し,飽和していることがわかります。"外部電流磁場ソース(COIL)におけるインダクタンスの取り扱い"にありますように,コイル鎖交磁束と比較すると,4,500A印加時の場合,4.42233e-004/(1.25318e-004×4)=88.22%と,コイル鎖交磁束のうちの約88%が鉄心中を通り,他は漏れていることも確認できます。
また,Fig.2に,印加電流4,500A時の,面要素における磁束密度の法線成分($B_n$成分)を示します。縦軸が磁束密度を表し,定義面より$B_n$=$B_z$となります。Loop1では,ほぼ2Tとなっており,X=0面にわずかですが寄っていることがわかります。Loop2ではY=0面に寄っていますが,Loop1同様,ほぼ同じ値になっています。
節点番号 入力 | 線要素 入力 | 面要素 入力 |
|||
---|---|---|---|---|---|
鎖交磁束(Wb) | 平均 磁束密度(T) |
||||
1000A | Loop1 | 4.42284E-05 | 4.42284E-05 | 4.42284E-05 | 7.07654E-01 |
Loop2 | -4.16667E-05 | -4.16667E-05 | -4.16667E-05 | -1.33333E-01 | |
3000A | Loop1 | 1.11718E-04 | 1.11718E-04 | 1.11718E-04 | 1.78749E+00 |
Loop2 | -1.12385E-04 | -1.12385E-04 | -1.12385E-04 | -3.59632E-01 | |
4500A | Loop1 | 1.25318E-04 | 1.25318E-04 | 1.25318E-04 | 2.00510E+00 |
Loop2 | -1.37195E-04 | -1.37195E-04 | -1.37195E-04 | -4.39023E-01 | |
5000A | Loop1 | 1.28069E-04 | 1.28069E-04 | 1.28069E-04 | 2.04910E+00 |
Loop2 | -1.43926E-04 | -1.43926E-04 | -1.43926E-04 | -4.60565E-01 |
次に,二次元メッシュを用いて鎖交磁束面を定義してみます。"時間周期問題の定常解への高速収束"でも使用した,IPM モータモデルに適用します(Fig.3)。ここでは簡単のため二次元モデルでの電流源解析とし,最大トルク運転条件とします。XY平面で作成した二次元メッシュで解析を行う場合,EMSolution内部でZ軸方向に一層拡張した三次元メッシュとして三次元解析が行われます。そのため,スライド面に線要素を定義すれば,内部で一層拡張して面要素として扱われますので,先に示した鎖交磁束の面要素入力を使用すれば,定義面の磁束密度の法線成分である,ギャップ磁束密度の径方向成分(R成分)を算出できます。本計算では確認のため,ステータ側とロータ側両方に線要素を定義しています。なお,ギャップに面出力用線要素を定義した場合,ロータの角度によってステータ側,ロータ側定義面の鎖交磁束と平均磁束密度は異なってきますので,意味を持たないと思われますが,面要素の法線成分であるギャップ磁束密度は回転機設計の重要なパラメータであることから,こちらを出力することを目的とします。
Fig.4に,ロータ角度-35度(d軸方向)での静磁場解析結果によるロータとステータのR方向の磁束密度を示します。ロータ側は-35度分移動させ,二極分として示しています。これより,ステータ側とロータ側で良い一致を示していることが確認できます。この方法で過渡解析でも同様に出力することが可能です。
これらより,三次元解析では,これまでの入力方法である節点番号入力,線要素入力と同様に,面要素入力でも鎖交磁束と平均磁束密度,加えて定義面の磁束密 度の法線成分を出力することができることを示せたと思います。さらに二次元解析でも定義面の法線方向の磁束密度を算出できることが示せたと思います。これ らはポストデータよりポスト処理ソフトウェアを使用しても算出することはできると思いますが,それよりは簡便に得られるますので,ご使用いただければと思います。
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