電磁場解析で定常周期解を高速に求める有用な方法として,近年TP-EEC法が開発され,特に時定数の長い問題では必須の機能となっています。そのベースとなる手法として,TP-FEM法があります。これは定常周期性に着目し,一周期もしくは半周期の時間ステップ丸ごとを行列方程式として解く方法で,非常に大きな行列方程式を解かなければならず,並列計算を用いて解く方法が提案されています。TP-FEM法は一周期もしくは半周期前の計算を一回の反復計算で解くため,一周期前もしくは半周期前の近似解を次の計算の初期値に使用していることと等価となります。この考えを一般的な過渡解析にも適用すれば,過渡解析時の一周期もしくは半周期前の近似解が定常周期解に近ければ,反復計算の良い近似解となり,反復回数を削減できると予想されます。そこで,本機能をEMSolutionに実装し,幾つかのモデルでその有用性を示せましたのでご紹介いたします。なお,本手法は上記したTP-EEC法とも併用して使用することができます。
本手法の考え方について,簡単に説明します。
有限要素法では,時間ステップの解析は陰解法を用いて解くため,ステップ計算時にはICCG法等の反復法を用いて近似解を求解します。一般的な過渡解析は,次に示すループを繰り返すことで時間ステップの解析を行っています。
定常周期性を考えた場合,一周期もしくは半周期をNステップに分割して過渡解析を実行し,十分定常に達した場合,以下の時間周期性が成り立つことが知られています。
$$ \Large x_{0} = \pm x_{N} $$
これは,例えば一周期性で考えた場合,M周期目のiステップ目の近似解はM-1周期目のiステップ目の近似解と一致することになります。しかしながら,従来の過渡解析では,一ステップ前の近似解を初期値として使用しているため,定常に達しているにも関わらず,同じ計算を繰り返していることになります。そこで,一周期もしくは半周期前の近似解を反復計算の初期値に用いれば,反復計算の残差が収束条件を満たしているため,余計な反復計算をせずに済むと予想されます。もしまだ定常に達していない場合でも,一周期前の近似解は定常周期解に近いことが予想されるため,反復計算時の初期残差を小さくすることができ,反復回数を削減,すなわち計算時間を短縮できると予想されます。この手順を示すと図2のようになります。
理論的な検証は文献で行っていますので,ここではより実機に近いモデルに適用した例を示します。
最初に,図3に示すタービン発電機の渦電流解析に適用した結果を紹介します。ロータ表面にスリットが設けられており,ロータ表面の渦電流損を評価しています。一周期を60ステップとし,TP-EEC法と本手法を併用して半周期30ステップと一周期60ステップでTP-EEC法の補正と本手法を適用した場合と,TP-EEC法のみの計算によるICCG反復回数の比較を図4に示します。なお,反復計算の初期値によらず得られた近似解は良い一致をすることを確認しています。
Conventional | Half periodic | One periodic | |
---|---|---|---|
No. of ICCG | 132,374 | 76,718 (58%) | 67,178 (51%) |
No. of NR | 2,213 | 1,177 (53%) | 1,013 (46%) |
Calculation time (min) | 309.5 | 175.1 (57%) | 173.3 (56%) |
固定子表面に発生する渦電流はスロット高調波に起因するものであるため時定数は比較的小さく,TP-EEC法による二回の補正で定常状態に近づくことが確認できます。半周期前の近似解を初期値使用(half periodic)と一周期前の近似解を初期値使用(one periodic)では補正二回目以降のステップでは反復回数は非常に緩やかに減少していき,5周期以降(301ステップ以降)でほぼ同じ回数を繰り返していることから,定常周期解となることが反復回数からも確認できます。
ICCG反復回数および非線形(NR)反復回数と計算時間の比較を表1に示します。half periodicおよびone periodicともに反復回数も計算時間もほぼ半分の56%となることがわかりました。
次に,始動解析への適用例として,リニアアクチュエータを用いて,静止状態から定常状態までの始動解析に本提案手法を適用し,反復回数の削減と定常状態が得られたかの判断基準になるかを示します。リニアアクチュエータの二次元解析モデルを図5に示します。アーマチャに磁性体と永久磁石が配置され,バネと接続され,磁性体コアにコイルが巻かれています。ここでは簡単のため100Hzの正弦波電圧源解析を行います。アーマチャを囲う領域をアーマチャの変位に伴い線形変形させ,運動方程式と連成解析を行っています。コアは非線形磁化特性とするため,運動方程式と共に非線形計算を行うことになります。一周期前の近似解と変位を初期値として使用しますが,一周期目は過渡状態が大きく出ることが予想されるため,二周期目から初期値として使用します。
計算結果として,図6にコイル電流波形とアーマチャの変位を示します。なお,本提案手法を適用した場合でも同精度の結果が得られているため,本提案手法を適用した結果を示しています。正弦波を印加しているため,計算開始時に変位量が大きくなっていますが,4周期目以降に落ち着き,定常に近づいていくのが確認できます。コイル電流も同様の傾向です。図7にICCG反復回数を示す。二周期目以降の81ステップから一周期前の近似解が使用され,161ステップ目(4周期目)から反復回数が緩やかに減少し,441ステップ以降(11周期)に反復回数がほぼ一定となり,よい精度で周期定常解に達したことが確認できます。表2に反復回数と計算時間を示す。いずれも70%程度削減できていることが確認でき,始動解析時においても本提案手法の有用性が示せたと考えます。
Conventional | Half periodic | One periodic | |
---|---|---|---|
No. of ICCG | 132374 | 76718 (58%) | 67178 (51%) |
No. of NR | 2213 | 1177 (53%) | 1013 (46%) |
Calculation time (min) | 309.5 | 175.1 (57%) | 173.3 (56%) |
これらより,本機能の有用性が示せたと考えます。本機能の適用範囲は広く,適用範囲のすべてのモデルでは実証しきれていません。しかしながら,本機能を適用したことにより計算結果が著しく変わることはありませんので,対象機器で試計算頂き,有効かどうかをご確認の上ご使用いただければと思います。
貝森:「定常周期性を利用した反復計算時の初期値設定に関する検討」,静止器・回転機合同研資,SA-17-027/RM-17-027 (2017)
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