電磁界解析ソフトウェアEMSolution

プレイモデルによるヒステリシス解析

概要

EMSolutionにおいて,磁性体の磁気特性の取り扱いとして様々な機能を提供してきました。 例えば,“非線形二次元異方性磁気特性の解析”では,例えば異方性電磁鋼板のように方向によって異なった磁気特性を考慮する解析手法を示しています。また,“均質化法による積層鉄心損失解析”では積層鋼板のようにミクロで見れば均質でない物体を均質材料として近似して計算する方法を示しています。 さらに,鉄損を評価するために,“ポスト処理による鉄損算出”ではその評価計算方法を示しています。
 ところで,近年低損失な電気機器の開発に際し,鉄損をできるだけ正確に計算することが求められています。 上に示しましたポスト処理による鉄損評価方法は,磁性体の磁気特性を初磁化曲線として計算することから,容易に計算することが可能ですが, より高精度に計算するためには,磁性体のヒステリシスの影響を直接考慮する解析法が重要になってきます。 そのような状況において,ヒステリシスモデルであるプレイモデルをEMSolutionに適用したヒステリシス解析機能を開発いたしました。

解説

1. プレイモデル

ヒステリシス磁気特性を表す多くのモデリングが提案されていますが,弊社では最近着目されているプレイモデルを採用いたしました。 プレイモデルはヒステロンと呼ばれる入力に対して出力の位相が遅れる簡単なオペレータで表します。Fig.1はプレイヒステロンの動作特性を表しています。 ヒステロンは(1)式のように簡単な方程式で表されますが,これはFig.2に示すような2台の台車モデルの動作と等価になります。 (1)式の$ζ$はヒステロン幅,$B$ は磁束密度,$p$ がヒステロン,$p_0$は過去のヒステロンを表します。 様々な$ζ$のヒステロンを用意し,各ヒステロンに対し形状関数と呼ばれる関数を作用させて,全ヒステロンの総和を取ることでプレイモデルとなります。

$$p_{ζ}(B) = B-\frac{ζ(B-p^{0})}{max(|B-p^{0}_{ζ}|)}$$

Fig.1 プレイヒステロン

Fig.2 台車モデル

Fig.3に,プレイモデルを用いて表した50A470相当の電磁鋼板のヒステリシス曲線を示します。 プレイモデルは実測データに基づいた数学的モデルであるため,所定の形式で実測したデータが必要になります。 また,その実測データの精度が磁界解析の精度や非線形収束特性に影響を及ぼすことも考えられますので,精度を高める工夫も必要です。 実測データから導出した形状関数を使用して,プレイモデル計算を行いますので,磁界計算の前に実測データから形状関数を同定する作業を行います。 その作業方法については,次回に示したいと思います。

なお,プレイモデルは直流の磁気特性を表現するモデルであり,形状関数は渦電流の効果を含まない直流磁化特性から同定を行いますので, 変動磁界下の解析モデルにおいては,従来通り導電率をEMSolutionの入力データとして設定し,渦電流場を解きます。

Fig.3 プレイモデルで表された
ヒステリシス曲線

2. リング試料を用いたヒステリシス解析

Fig.4に示すリング試料を用いたヒステリシス解析を行います。 メッシュデータであるpre_geom2D.NEU,解析条件ファイルinputで解析を行います。プレイモデル解析に必要な形状関数ファイルはshapeです。
試料の渦電流を無視すると二次元静解析となりますが,試料の径方向の磁界の成分は小さく,実質は一次元モデルとなります。 リング試料には空隙はなく,磁極が現れないため,ヒステリシスによる影響が顕著に表れる解析モデルと言えます。 初期条件として,リング試料は消磁されているとし,コイルには0.05Hz,最大5ATの正弦波電流を印加します。

Fig.4 リング試料

Fig.5に磁束密度分布の時間的な変化を示します。 図からわかりますように,リングが磁化されたために電流増加時の (a) 2.5s と電流減少時の (c) 7.5s の電流の大きさは等しいですが,磁束密度分布は異なっています。
また,Fig.6にコイルに流れる電流とコイルに鎖交する磁束量の時間的な変化を示します。電流に対して磁束量の位相は遅れており,定性的に正しいことがわかります。

(a) 2.5s

(b) 5s

(c) 7.5s

(d) 10s

Fig.5 磁束密度分布

Fig.6 電流と磁束量の時間的な変化

参考文献にも説明がありますので,ご参照ください。ただし,本文とはヒステリシス材料などが異なっております。

3. ヒステリシス損分布

“ポスト処理による鉄損算出”と同様に,プレイモデルでヒステリシス解析を行ったときのヒステリシス損分布をポストデータとして出力することができます。 上述のリング試料モデルにおけるヒステリシス損分布をFig.7(a)に示します。 無励磁の初期状態から始まる1周期目ではなく,定常状態になった2周期目以後の周期で鉄損を評価しています。 Fig.7(b)は“ポスト処理による鉄損算出”(算出法②)によって計算したヒステリシス損分布です。 Fig.8はそれぞれの算出法の結果を径方向の分布値としてグラフ化したものです。 ポスト処理による鉄損計算では,磁束密度の二乗に比例してヒステリシス損が変化しますが,プレイモデルによって計算した場合は,実測したヒステリシス特性に応じて損失が計算されます。 なお,プレイモデル計算に使用したヒステリシス特性は実測値をベースとしていますが,ポスト処理における鉄損係数は,メーカカタログから求めたものを使用しました。

(a) プレイモデル計算

(b) ポスト処理

Fig.7 ヒステリシス損分布 単位[$W/m^3$]

Fig.8 ヒステリシス損分布比較

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