EMSolutionで用意している電流磁場ソースは,巻線コイルを想定しているものとバルク導体を想定しているものがあります。 巻線コイルを想定している電流磁場ソース("ELMCUR","SDEFCOIL","COIL")はコイル断面の電流分布が均一になる,もしくは均一であることを前提としています。 それに対し,バルク導体は形状により電流が分布し,また交流磁場下では渦電流が発生します。 バルク導体の磁場ソースとして,"PHICOIL"と"SUFCUR"を用意しています。 ここでは,PHICOILとSUFCURを用いたバルク導体の直流(DC)解析と,直流に擾乱としてわずかな交流(AC)が重畳した定常解析方法について説明します。
Fig.1に示す簡単な例題を用いて説明します。 二次元軸対称として,ZX平面に導体板のリングがあり,電流は周方向に流れるとします。 また,メッシュ上部を$B_n=0$としています。 これは鏡面対称で上側にも導体板があり,電流が逆方向に流れていることと等価となります。
まず,DC解析を行います。
DC解析の場合,静磁場解析(STATIC)で計算が可能です。
DC電流=3000Aとした電流源解析を行います。
バルク導体板中の電流分布は形状により決まりますので,PHICOILの使用が適当です。
本モデルの場合,軸対称解析ですので,導体断面では内側に寄った電流分布となります(Fig.2)。
なお,PHICOILでは導体の渦電流損をoutputファイルに出力しません。
渦電流損を計算するには,PHICOILに導電率を設定するとEMSolution内部で導体部分の抵抗を計算し,outputファイルに出力していますので,その抵抗と電流を用いてI2Rで計算してください。
本モデルでは0.01069Wとなります。
なお,outputファイルに出力される抵抗はREGION_FACTOR倍されます。
ここではSUFCURを用いた渦電流損と比較しやすくするため,REGION_FACTOR=1としています。
◆outputファイルの出力
つぎに,DC解析にSUFCURを用いて解析してみます。 ただし,SUFCURは機能上STATICに適用できませんので,過渡解析(TRANSIENT)を行う必要があります。 TRANSIENTの場合,DC電流印加であっても解析の最初で数値的な過渡状態が発生しますので,それが落ち着く(定常になる)まで解析する必要があります。 ここでは時間刻みを50msとし,800ステップ(40s)解析してみます。
Fig.3に渦電流損グラフを示します。 計算初期に発生した数値的な過渡状態が緩やかに減少し定常に近づいている様子が見て取れます。 拡大すると,25sくらいで定常になっていることが確認できます。 これは計算初期にステップ上にDC電流が印加されたことにより渦電流が発生し,渦電流の時定数で定常に近づいているためです。 Fig.4に導体断面の渦電流分布を示します。 計算初期では渦電流の影響により電流が導体表面に寄っていますが,定常になるとPHICOILと同じ分布となっていることが確認できます。 当然ですが,得られた渦電流損は0.01069WでPHICOILでの結果と一致します。 なお,SUFCURを用いて出力される渦電流損はoutputファイルに出力され,メッシュ領域のみの値となります。
本条件ではDC電流を印加している,つまり定常状態を求めることが目的ですので,SUFCURを用いてTRANSIENTでDC解析をすることは,数値的な過渡状態も含めて解析しなければならないため無駄であるといえます。
PHICOILで得られた結果を初期値として,SUFCURを用いてリスタート解析することができます。 本条件に適用し,20ステップ(0.1s)解析してみます。 Fig.5に渦電流損グラフを示します。 予想通り,渦電流損は一定値0.01069Wとなり、他の手法を用いた解析と一致します。 もちろん導体断面の電流分布もPHICOILと一致します。
次に,DC電流に擾乱程度の小さなAC電流が重畳する解析を行ってみます。
電流はDC=3000Aに対し1%,AC=3A, 50Hzの交流電流が重畳しているとします。
まず,SUFCURで最初から計算してみます。
交流波形を表現できる程度の時間刻みが必要となることから,先ほどのDC解析よりも時間刻みが小さくなる分,多くのステップ計算を行う必要があります。
ここでは時間刻みは50Hzの周期を20分割=1msとし,10,000ステップ(10s)計算してみます。
Fig.6に渦電流損グラフを,SUFCURを用いたDC解析の結果と併せて示します。
DC電流に対して1%程度のAC電流の重畳は時定数に影響を与えておらず,DC電流による数値的な過渡状態が定常まで続いている様子がわかります。
DC解析が25s程度で定常になっているため,DC+AC解析ではさらに数万ステップ計算しなければ定常にならないことがわかります。
モデルは二次元モデルですので10,000ステップでも計算時間は大したことありませんが,三次元モデルとなると数値的な過渡を除くためだけに数万ステップも計算する必要があり、非現実的です。 そこで,PHICOILを用いたDC解析結果を初期値として、SUFCURを用いてDC+ACリスタート解析を行ってみます。 これはすぐ定常になると思われますが,確認のため50Hzで3周期計算します。 Fig.7に渦電流損グラフを示します。 AC成分はわずかなので,計算開始時からほぼ定常に達しています。
以上,バルク導体をDC解析,DC+AC解析する場合に,PHICOILとSUFCURの適用方法を紹介しました。 リスタート解析に用いる初期値は,リスタート解析で求めたい解と近い方が素早く定常に達します。 今回はAC成分がわずかであったためDC解析結果を初期値としてリスタート解析することができましたが,逆にAC成分にわずかにDCが重畳する場合は,AC成分の時定数で定常に達すると考えられるため,リスタート解析は行わず最初からDC+AC解析を行うことをお勧めします。
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