外部から周期的に磁場が印加されるときの定常解を求める問題では、一般的に解が収束するまで過渡解析を行う必要があります。ここでは、解析条件によってその収束性がどのように変化するか検討します。解析例として、COIL(外部磁場電流ソース)が回転運動し、導体に周期的な磁場が印加されるモデルの計算を行いました。
Fig.1のような円板(厚さ1cm、半径30cm、導電率$5×10^7$S/m)に対して、45度毎に対称に置かれた8個のコイル(COIL)が6000rpmで回転運動するとします。ただし、全てのコイルは同極となるような等しい電流が流れています。解析は対称性を考慮して、対称周期境界条件を用いて45度分のみ円板を分割します。また、円板は周方向に15分割(3度毎)しました。
種々の解析条件を用いたときの解析結果であるジュール損の時間変化をFig.2に示します。まず、時間ステップdt=3/(360×100)=0.0833msとし、磁場の初期値をゼロから始めました。図中の「ゼロ初期値」がその結果ですが、20ms(240ステップ目)でほぼ定常に達しています。
次に、最初にコイルが静止した状態の静磁場解析を行い、その解を初期値として過渡解析を行いました。時間ステップは「ゼロ初期値」と同一です。Fig.2では「静磁場初期値」として示され、解は20msでほぼ定常になっていますが、まだ多少振動しています。従来、時刻ゼロで磁場が加わった状態からの過渡解析は、静磁場解析値を初期値とすることで定常状態への収束は速くなると考えておりましたが、このようなモデルには当てはまらないことがわかりました。理由は後で詳しく示しますが、本計算の場合、定常状態では表皮効果により円板内部の磁場はかなり小さいものとなります。このため、円板に磁場がある程度しみ込んだ静磁場解析の結果を初期値とするよりも、ゼロとして計算した方が良いと考えられます。
更に、初期値はゼロとし、15msまでは前に示した条件の4倍の時間ステップ(0.3333ms)、その後元の時間ステップ(0.0833ms)としてリスタートさせて解析しました。図中の「4*dt→dt」がその結果ですが、15msまではステップ数が1/4に減少するため、定常状態とみなされる時刻は前のケースよりも遅いのですが、トータル205ステップと少ないステップ数で定常状態に達しています。時間ステップを細かくした途端、dtで行った結果に急速に近づき不思議な気がしますが、計算時間を短縮するには有効な方法です。
Fig.4には直流場渦電流解析(STEADY_CURRENT)によって求められた解を重ねています。全ての過渡解析の定常状態に一致しており、解は妥当であることがわかります。本計算のように円板が一様な運動を行う解析では、直流場渦電流解析は非常に有効な解析手法といえます。
ここで、 Fig.2のような解の収束過程についてもう少し考察してみます。Fig.3はゼロ初期値計算の10msの渦電流分布を示します。渦電流分布はほぼ定常状態のように思われます。Fig.3の結果と一周期(15ステップ)後との差を取ることにします。厳密に定常状態であればゼロになりますが、Fig.4のような円板を一周する電流モードとなります。この差分は渦電流に比べて非常に小さいのですが、板厚方向にはほぼ一様となっています。また、時定数が大きく減衰が遅いモードであるため、定常状態に達するまでの計算時間が多大にかかる原因になっていると思われます。このモードの大きさは、解の収束性の観点から解析の初期値に依存することがFig.2より推察されます。時間ステップを粗くした場合、この大きなモードの減衰も解析されるのですが、Fig.3に見られる時定数の小さいモードの解析精度が下がるため、定常値と比べジュール損の結果に大きな差が現れています。粗い時間ステップの計算で時定数の大きなモードは既に小さくなっており、それから細かい時間ステップに移ると時定数の小さいモードの解析精度が上がり、Fig.2のようにステップ的に定常状態に近づくものと思われます。大きなモードの時定数は、板厚、導電率および板の寸法(長方形としますと短辺)の積に比例します。板の寸法が大きく、それに比べ渦電流の分布が細かい構造を持っているとき、定常への収束はより遅くなると考えられます。数値的にこのモードを減衰させることも可能かと考えられますので、今後より詳しく調査したいと考えています。
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